モアレた日記

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なんだこの自己満ブログ

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3.11に寄せて

 

あの日私は小学生で、あの瞬間はエレベーターを降りた瞬間だった。確か「珍しいなぁ」なんて呑気なことを思っていたと思う。ドアを開けた時にはもう巨人が怒ったんじゃないかと、まあそんなこと考える余裕もなかった。靴も履かないまま飛び出して、エレベーターの前で蹲ってた。ボタンを押したら一応動いたんだけど、小学生なりに、「なんか今エレベーターに乗ったらヤバい」と咄嗟に理解した。エレベーターの扉がガタガタ言いながら口を開け、吸い込みそうな黒に飲まれた空間を目にしたのを今でも覚えている。

その後近所のおばさんとお兄さんが来て、蹲った私を抱きしめながら「大丈夫、大丈夫」と声をかけてくれた。しばらくして、廊下の柵を覗くと、母の自転車が小さく見えた。ここら辺でようやく自分が靴下のままなのに気が付いた。おばさんとお兄さんにお礼も言わず、母の元に急いだ。

 

まあ、今思えば、たいしたことない被害だ。ポットが倒れて、そこに入った熱湯が床にシミを作ったくらいで(ちなみに今でもそのシミは残っている。)、でもやっぱり大きな穴のような、非日常の空間を思い出すとなんとも言えない気持ちになる。

その後テレビはニュースばかりになって、CMも無くなって、コンビニから物が消えて…なんか、すごかった。でも、確かに私達にとって、あの時はあれが日常だった。非日常と日常がグラデーションのようにゆるやかに変わっていったのは、あの時ぐらいなんじゃないかな。戦争とか、ああいうのって悲惨な映像ばかり見るけれど、実際はこうやって非日常がじんわりと染み出して、麻痺していくんじゃないかな。

 

10年以上経ってもこんなに鮮明に思い出せるのは、あの記憶がやはり死の淵の記憶で、深い傷になっているからだ。12年前、日本の地に足をつけていた全ての人が深い傷を負っている(こんな表現をするのは、当時父がちょうど飛行機に乗っていた瞬間だったからである)。私達はまだ、非日常に続く日常の中にいる。