凛堂:探偵事務所経営の美人 陽一:ひょんなことから凛堂の助手になる。事務所に住まわせてもらっている(格安で)。
歯磨きってエロいなと思ってガッと書いて放置してたやつなので拙い
前回は剃刀ってエロいなの回です→とある探偵話の零葉 - モアレた日記
口の端から力なく声が漏れた。柔らかな剥き出しの肉壁に細かな歯を優しくあてがわれる。そしてゆっくりと擦り、時に手で歯の縁をなぞられる。なぜ、こんなことに。陽一は疑問に思いながらも、振動に身を任せ、ゆっくりと目を閉じた。
「陽一くんてさぁ、歯磨き短いよねえ?」
「はぁ。」
近くのコンビニで買ってきた貧相な夕食を済ませた後、事務所にはゆっくりとした時間が流れる。夜型の凛堂はたいていこの時間に本なんか読んでたり、真面目そうに書類を読んだりしている。一方朝型である陽一はさっさとシャワーを浴びて、寝てしまうのだ。ベッドに入る直前に歯を磨くせいか、確かにその出来は睡魔によって日々悪くなっている。
「…じゃあ明日しっかり磨きます」
「えー、ちゃんと磨かないと虫歯になっちゃうよ」
うるさい、母親めいたことを言うな、と言い返したいところだったが、いかんせん眠い。眠気というのは、どうしてだろう。
「磨いてあげようか」
「はい」
どうしてこうも馬鹿なことを許してしまうのか。
「じゃあ横になってね」
「…」
陽一がベッドに横になると、凛堂が正常位のように上に覆い被さってきた。凛堂の尻が足の上に重しのように重なって動けない。そしてゆっくりと陽一の顔に近づいた。手には真新しいブラシが握られている。凛堂が陽一の口に手をフックのように引っ掛けて、もう片方の手で歯をなぞる。
「これ血出るかも」
歯茎と歯の間を硬いブラシが行き来する。少しの痛みと、細かな振動が伝わる。柔らかな肉壁に、プラスチックの先端がたまに触れる。不規則な動きがなんだか気持ち良い、と思った。
「…なんだか昔みたいだ。弟が小さかった頃こうしてよく磨いてやっていたよ。」
凛堂が昔の話をするのは珍しい。彼に弟がいたことは前に何度か話の流れで聞いたことがあったが、こうして思い出話のようにしんみりと話すのは初めてだった。兄貴面されるのは不本意だが、口を塞がれているから言い返せない。この沈黙が、凛堂を少し昔に戻しているのだろうか。
「こうしてやらないと、すぐ虫歯になるんだ。面倒だからって歯を撫でるだけで終わっちゃう。ゆっくり時間が流れる夜の中で、いつも急いでるような奴だったから。」
それからしばらく凛堂は黙ってブラシを動かしていた。シャリシャリ、という音はこの沈黙にはどこか似合わない間抜けな感じがした。はい、終わり、と声をかけられるまで、陽一は口内の快感に身を任せていた。
「ちゃんとうがいしないと虫歯になっちゃうよ」
「うるさい」
スッキリとした口内に、爽やかなミント系の香りが広がる。清涼感あふれる鼻腔の刺激によって今や眠気はどこかに消え去ってしまった。なぜあんなことをしたのだろうという疑問の答えは、睡魔だと陽一は心に決めたのであった。