モアレた日記

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なんだこの自己満ブログ

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とある探偵話の零葉

 

 

凛堂:探偵事務所経営の美人  陽一:ひょんなことから凛堂の助手になる    

凛堂←陽一の無自覚片思い 殺すという行為に無自覚に興奮してる陽一の話        

 

 

    薄く伸びた襟足に刃をあて、切り落とす。この単純な作業は割と好きだ。それを分かってかは知らないが、凛堂は数ヶ月に一度、俺に襟足を整えて欲しいと頼んでくる。それに、この事務所に格安で住まわせて貰っているのだから、あいつの頼みはなるべく聞かなければならない。

「じゃ、いつもの通り頼むよ」 「…床屋じゃないんだからな」

  普段はあまり見ることのない、凛堂の後頭部に刃を当てる。床に敷いた新聞紙が足裏にくっついて、乾いた音が鳴った。チリ、と刃と毛の擦れる音がする。

  その瞬間、俺に奇妙な欲が湧いてきた。今、自分は凛堂の命を握っている。刃物と、無防備な首筋。もしこの肌に刃を真っ直ぐ当てたなら、どうなるんだろう。彼の白い皮膚の下、この内側には何があるのだろう、と。

  ペンで線を引くように、首筋に短く線を入れる。すると線はじわじわと赤に染まり、小さな血の泡(ほう)がぷくり、と膨れ上がった。指で拭うと、血の泡は絵の具のように伸び、白い彼の肌に薄くあとを残した。

「…痛いよ、床屋さん」 「…あ…ごめん」 凛堂のオニキスのように真っ黒な目がこちらを向いた。黒と、白と、うっすらと残る赤の筋。自分は何をやってるんだ、と思う前に、ただ綺麗だと思った。  

 

「陽一くん、君はやっぱり良い相棒だ」

「…床屋が相棒でいいのか、お前」

「…孤独とは、誰も自分に手を下してくれないという認識のことだ。でも君には」

凛堂はこちらをじっと見つめ、妖しく笑った。

 

殺しの才がある