9.11に寄せて
ビルの窓から作られたストライプに沿って真っ逆さまに落ちてゆく男性。「The falling Man」と題されたこの写真を初めて見た時は、衝撃だった。物のように落ちて行く男性を「恐しい」と思った。これは、犠牲者2606人という無機質な数字で命が扱われてしまう不気味さと恐ろしさと同である。
2001年9月11日は、私の生まれた日付のすぐそばだった。しかし、実際のところ、第二次世界大戦も「ヒロシマ」も、地下鉄サリン事件も、私にとっては自分の存在より前にあったものとして、どこか遠い場所にある。好きだった「映像の世紀」も、どこか遠い国の話をしているみたいで、なんとなくの恐怖だけはあった。数字の上では沢山の人が死んだ、という何となくの恐怖である。
九月になると、この「ただ落ちてゆく男性」を思い出す。知らぬ間にあった恐怖と、それが史実としてまとめられていくときに抜け落ちるということ。その当時の、本当の感情は生モノだから、残すことができない。この男性は最期に何を考えただろう。写真からは全く分からない彼の感情を憶う。そして、自分は死の淵で何を考えるだろう。
合掌