詩人リルケは自宅の庭でバラの花を摘んでいた。エジプトからやって来た美しい女性に贈るため、バラを用意しようと思いついたのだ。その時にバラのとげが男の指に刺さった。小さな、小さな傷。ところが、傷はみるみるひどくなり、それがもとで男は命を落とす。
幼い頃から、ちょっとしたミスがあると気が狂うのじゃないかってくらい苦しんでいた。ハンカチを忘れたら一日中ヒヤヒヤしていたし、お風呂の床には何か汚いものがあるんじゃないかと思って足をつくことが出来なかった。
まあ現状、これらの苦しみは人生経験と共に薄らいでいったのだが、ふとした瞬間にこの性格が顔を出す。
例えば待ち合わせをする時、電車内ビジョンに表示される小さな時計を見ながら、ハラハラしたり。やるべき事がある時、逆に不安すぎて何も手がつかなかったり。
不安というのは時に原動力にもなるものだが、時に「不安すぎて何もできない」状態になるのが厄介である。
最近もそんな「厄介な」日の連続だった。
4月も始まり、学校へ提出しなければならない資料、連絡、申請…そんなものが山盛りあった。というか、「山盛りある」と言う事実を確認するまでにものすごく時間がかかった。
提出期限がいつなのかだとか必須だとか言われてしまうと、もうそれ以上考えるのが怖くなって、頭の端に追いやろうとしてしまうからである…。頭の端に追いやったものは本当にギリギリまで確認しない。こんな生き方でいいんですかね、マジで。
詩人リルケは小さな傷を気にしなかった所為で命を落としたけど、自分はどうだろう。おそらく、「傷は大病に繋がる」という考えを確定させたくがないために(事実であると認識したくないために)、病院には行かない。傷の不安が、正解を塞いでいる。
今の苦しみが棘の傷でないことを願う。