下書きに溜まってた書き出し集、小説だったり考察だったりラノベチックだったり
窓ガラスに這う雨粒を見つめながら、一彩は頬杖をついていた。濡れそぼった木々の間から、奥に並ぶ街頭の光が弱々しく漏れているのをじっと見つめる。授業中だというのに、集中出来ずにいた。重くどんよりとした空気の中、チョークの音だけが教室の沈黙を遠く突く音がする。
*
舞台は東京・八王子。罪もない夫婦を凄惨にも殺害し、全裸で現場に留まった後、犯行現場に「怒」の一文字を残したという、容疑者・山神一也。彼はその動機を「同情して出してくれたものが水だった」と語る。
2016年に公開されたミステリー映画「怒り」のあらすじである。
*
彼とはホテルのラウンジで待ち合わせた。薄汚れた柱の影で、彼は待っていた。
「そうやって隠れるの、やめてもらえませんか」
「えー。少しくらい君を観察させてよ。仕事以外で会ったこととか無いんだし」
「好奇心、死の舞踏」
猫じゃないんだし、と彼は笑いながら言った。それからチェックインを済ませて、部屋に向かった。
*
窓から差しこむ陽光に照らされて、森尾の睫毛が金色に光っていた。それが近づいてくるのを、私はどこか夢を見ているような、他人事のような気持ちで眺めていた。
窓を通り抜けた陽光に濡らされて、彼の睫毛のふちがキラキラと輝いているように見える。私は、宝石のようなそれを、ただぼうとして見つめていた。