モアレた日記

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なんだこの自己満ブログ

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いろんなBLの冒頭とか書きたいとこ

 

 震える彼の背をそっとさすった。彼が別の人との知らない話をするたびに、自分の心臓が酸を味わった様な痛みで窄むのを感じた。その人の場所は、役割は、僕がやったって良いんじゃないか、と。
「聞いてくれてありがと。」
彼はそう言うと、また元の調子に戻るのだった。

 

 僕は内頬を強く噛んで、またやり過ごそうとした。今ここであいつに殴りかかりたいという気持より、無力感と自己嫌悪の方が、ずっと重い。あいつを「あいつ」と呼ぶのも申し訳ないくらいだ。皆の視線から逃れるようにその場に座り込み、溢れる感情の濁流を必死で抑え込んだ。内頬はもう、血だらけになっていた。

 

 いつもそばにいるから、咳をすれば心配になる。機嫌が良いと自分も嬉しい。ため息が聞こえると、不安になる。姿が見えないと、何か、足りないような心地になる。そんなのは、なんていうのだろう。恋とも友情とも違う情愛の形を、どんな関係で表そう。

 

 全て話して欲しいと思った。「自分だけが知っている」でまるごと塗り替えて、優越をじっくり味わいたい。手だけではなくて心まで繋がってしまいたい。そんなのは、現実には無理なんだろうけど。でも彼は、僕のそういう邪な感情を、分かっているようだった。

 

 恋人という立場を得ながら、この人が自分のことを好いているという確信は持てずにいた。というか、立場を得てからの方が、不安になった。友達という名前で関係を繋いでおいても、数ヶ月連絡を取らなければ忘れられてしまう。そう思うと全ての関係が無駄に思えてきて、まるで鉛に括られたかのように、身体がずっしりと重くなるのだった。

 

 新聞の、角ばった文字を見つめて考えていた。男子高校生、電車、事故。きっとこの人は降りられなかった人だ。

 

 日暮里。街全体から「あの布の匂い」が漂う。布の匂いは押し入れの匂いにも似てる。大きな押し入れの日暮里。

 

 まあ、電車の中に漂う、銘柄も分からない香水の匂いにも酔ってしまうくらい、浮かれているわけだけれども。

 

 

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