モアレた日記

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なんだこの自己満ブログ

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オニキス

呑まれそうな黒だった。彼の睛を見た時、思い出したのは、あのまんまるなオニキスだ。

幼い頃、横浜の中華街に連れて行って貰ったことがある。白檀の香る狭い路地裏に、小さな雑貨屋が沢山あった。中でも、ザルに沢山の天然石を盛り、まるで魚市場のように並べた店にはえも言われぬものがあった。虎目石、水晶、翠玉。どれも宝物のような輝きがある。店の老母に、綺麗な石でしょう、と言われた時には驚いた。幼い自分にとって、石というのはあの河原で見かける、目立たぬ灰の集団だったからだ。

石の魚市場の端に、真っ黒な一つを見つけた。水に曝したようにてらてらとしたそれは、オニキスだった。手に取り、じっと見つめているうちに、欲しくてたまらなくなった。私は母にねだって、800円ばかりの小さなオニキスを手に入れた。

家に帰り机上に置くと、それは益々真っ黒になったように感じた。その時私は何故だか、それを口に含んでみたい、と思った。机上のそれをただ美味しそうとも不味そうとも感じたわけではない。口に含んで、これは自分のものであるという欲を満たしたかったのだと思う。

欲。この目の前にある彼のオニキスの睛は、その欲を思い出させた。食欲と独占欲の混ざり合った子供の感覚である。欲しくて欲しくてたまらなかったあのオニキスを、また呑み込みそうになっている。同時に、呑まれている。